万葉の昔から和歌に詠まれ、俳句の秋の季語でもある「花野」は秋の野辺。ススキの穂が波打つ草原に、秋の七草をはじめとする可憐な植物たちが咲き誇る世界です。
阿蘇は、我が国でも貴重な「花野」の里。秋にはオミナエシやカワラナデシコ、ヤマハギ、キキョウ、ヤツシロソウ、ヒゴタイ、ツクシトラノオなど、春から初夏にかけてはハナシノブやツクシマツモト、ケルリソウ、ツクシクガイソウ、タマボウキなど、阿蘇でしか見ることのできないたいへん希少な植物たちが自生しています。そして、植物だけではなく、ヒメシロチョウやオオルリシジミ、ゴマシジミなどの蝶の仲間や、コジュリンやホオアカなどの鳥たちも、阿蘇の「花野」を生息地としているのです。
●ここで挙げた植物の多くが絶滅危惧種です。環境省のまとめによれば、50種類以上の野の花が絶滅の危機にあります。
「花野」はかつて、阿蘇では当たり前の風景でした。農耕牛を育てるために、春から夏場は「朝草刈り」、秋になると「刈り干し切り」をして 飼料を確保し、この採草の繰り返しによって「花野」は維持されてきたのです。
しかし、昭和40年代、農業の機械化や化学肥料の利用、畜産業の低迷などによって、草原の存在そのものが危うくなるに至りました。草原が失われていくことで、阿蘇の野の花は生きるための場所を失い絶滅の危機に追い込まれています。阿蘇の地で何万年と生き続けてきた多くの野の花が、今まさに姿を消そうとしています。
●農家の減少、放棄地の増加、植林などによって採草地は激減しており、この10年間で半分ほどになっています。
阿蘇では広く放牧が行われ、春には大がかりに野焼きが行われています。このため、野の花たちの生育地も守られていると思っている人が多いようです。しかし、放牧地では伸びてくる草は次から次へと食べられてしまい、花を咲かせることはできません。また、野焼きだけを繰り返すと、ススキだけが茂った「茅野」になってしまい、ススキ以外の植物は下に埋もれて細々と生きるしかありません。「花野」は、採草が繰り返し行われ、適度にススキを押さえることが必要なのです。
NPO法人「阿蘇花野協会」は、ナショナルトラスト方式によって「草刈り」や「草集め」など昔ながらの草原の利用を行い、貴重な財産「花野」を再生・保全する活動を進めます。そして、絶滅が危惧される阿蘇の動植物を未来へと引き継いでいきます。
●ナショナルトラストとは、募金や寄贈によって土地を保有し、保全、管理、再生を行う運動です。
阿蘇の草原には、ハナシノブやツクシマツモト、ツクシトラノオ、ケルリソウ、タマボウキなど、国内では阿蘇だけに自生する貴重な植物が数多く生育しています。こうした阿蘇の野の花の多くは、氷河時代に中国大陸や朝鮮半島を経由して日本に渡ってきたものと言われています。阿蘇の野の花は直接に口を開いて自らの歴史を語るわけではありませんが、阿蘇に存在することによってアジア大陸と九州とが陸続きであったことを語る「歴史の生き証人」として阿蘇の地で生き続けています。
阿蘇の野の花は、採草や野焼きなどの人々の営みと自然の力が釣り合った形で維持されてきた半自然の草原が主な生育地となっています。この草原は、昭和40年代頃まで農業の基盤として不可欠のものであり、農村の暮らしと深く結びついて長年にわたって維持されてきました。しかし、農業の近代化によって機械化や化学肥料の利用が進んだことや、畜産業の低迷によってその存在価値が減少し、草原の存在そのものが風前の灯火の状態になっています。草原が失われることで、そこに生育してきた阿蘇の野の花は生きるための場所を失い絶滅の危機に追い込まれています。阿蘇の地で何万年と生き続けてきた多くの野の花が、今まさに姿を消そうとしています。
私たちは、人と自然とが共生することによって育まれてきた阿蘇の野の花の植物学的価値や文化的豊かさを広く啓発するとともに、この阿蘇の野の花が豊かに咲く草原(花野)を保全・再生を進めます。そして、長い歴史の中で育まれた阿蘇地域に固有の動植物や草原生態系などの生物多様性を、持続可能な方法で適切に保全して、阿蘇に生育する種の絶滅の防止・回復を図り、阿蘇の野の花を未来に引き継いでいくことを目的として、ここに「阿蘇花野協会」を設立いたします。